【エッセイ】華麗なる旋律にあふれた ショパンの世界――西﨑あゆみ(ピアノ)

【エッセイ】華麗なる旋律にあふれた ショパンの世界――西﨑あゆみ(ピアノ)

2019年6月15日(土)14:00に東京 銀座・王子ホールで「西﨑あゆみピアノリサイタル ~華麗なる旋律と共に~」を開催いたします。リサイタルに向けて西﨑あゆみさんにエッセイをご執筆いただきましたので、ご覧ください。


 「鍵盤の詩人」として知られるショパンは、十九世紀のピアノ音楽史において重要な作曲家の一人である。三十九年という短い生涯の中で世に送り出された作品のほとんどがピアノ曲で占められ、他のジャンルの作品は数えるほどしか存在しない。

 ショパンのピアノ曲の特徴の一つとして挙げられるのが、難しい曲はあるものの、技術的に無理な要素を含んだ作品はほとんど存在しないという点ではないだろうか。ショパンはピアノを自ら演奏する際に、自然で快い指の感触を非常に大切にしていたと言われている。そしてそこで得た感触を自身の感受性として吸収し、作品に反映させていったのだろう。

 こうして生み出されたショパンの作品は、本質的にピアノ本来の持ち味や性能が追求され、演奏技巧に関しては保守的な面が目立つ。しかし音楽的な側面から見ると、独創的で革新的な要素にあふれていると言ってよいだろう。例えば、ポロネーズやマズルカはもともと生まれ故郷であるポーランドの民俗舞曲だが、ショパンはその個有のリズムや形式を生かしつつも様式を洗練させて、芸術的な作品に生まれ変わらせた。エチュードは、高度な演奏技術の習得だけではなく、音楽的な表現も求められる内容となっている。ワルツは、パリでサロンの寵児と呼ばれたショパンにふさわしく、単に踊るための曲から優雅できらびやかな演奏会用作品に進化を遂げた。物語風の歌曲を意味するバラードは、詩の内容からインスピレーションを受けて作曲したと言われている。スケルツォは、本来「冗談」や「滑稽」を意味し、ベートーヴェンが交響曲やソナタの第三楽章に使用していたが、ショパンはそれに劇的な表現を加えて性格的な小品として独立させた。古典派の代表的ジャンルであったソナタにも挑戦し、特に第二番においては、第二楽章にスケルツォ、第三楽章に有名な「葬送行進曲」を置く大胆な楽章構成をとり、形式的にも古典派の伝統を打破した傑作である。

 今回演奏する「二十四の前奏曲」においても、先程述べたノクターン、ワルツ、マズルカといった他のジャンルで培った書法が用いられている。華麗なる旋律にあふれた、ショパンのピアノ曲の魅力が凝縮された作品と言えるのではないだろうか。


演奏会情報

2019年6月15日(土)西﨑あゆみピアノリサイタル ~華麗なる旋律と共に~
会場:東京 銀座・王子ホール
時間: 14:00開演(13:30開場)
料金: 全席自由 2,500円

出演者

西﨑 あゆみ
ピアノ

武蔵野音楽大学卒業、同大学院修了。在学中より声楽、器楽、合唱等の伴奏を務める。カザルスホールにおけるアカデミーコンサートをはじめ国内での演奏会に数多く出演。2003年サンクトペテルブルグ・アカデミック交響楽団(ロシア)との共演を皮切りに、ポーランド、ブルガリア、ドイツなどのオーケストラと共演。2005年東京オペラシティリサイタルホール、2008年東京文化会館小ホール、2010年、2013年津田ホール、2015年、2017年王子ホールにてソロ・リサイタルを開催。ピアノを奥村晃博、佐藤俊、磯村叙子、エレーナ・アシュケナージの各氏に師事。現在、ソロ活動、合唱伴奏、後進の指導にあたっている。

曲目

J.S.バッハ:イギリス組曲 第4番 ヘ長調 BWV809

シューベルト:4つの即興曲 作品90 D.899より 第1番 ハ短調

シューベルト:4つの即興曲 作品142 D.935より 第3番 変ロ長調

ショパン:24の前奏曲 作品28